観光都市・鎌倉の課題と未来への提言
私は、仕事を通じて横浜市の観光事業に携わっており、その視点から率直に申し上げると、現在の鎌倉は「日本を代表する観光地」とは言い難い状況です。
旧鎌倉や鎌倉高校前といったエリアでは、
✅ 渋滞・混雑
✅ ゴミのポイ捨て
✅ 路上喫煙
✅ 電波障害
といった問題が市民生活に悪影響を及ぼしており、「これ以上観光客に来てほしくない」と考える住民も少なくありません。一方で、観光業に従事する事業者にとっては、コロナ禍の苦境を乗り越え、ようやく賑わいが戻ってきた今の状況が続くことが望ましい。結果として、住民と事業者の間に大きな溝が生まれています。本来、この対立を調整し、適切な解決策を提示するのは行政の役割ですが、現時点では目に見える形での対応は進んでいません。
観光都市としての鎌倉の現状
さらに、現在の鎌倉には観光地として必要な基本的なインフラやサービスが不足しています。
✅ トイレの不足
✅ 喫煙所の未整備
✅ ゴミ箱の設置不足
✅ Wi-Fi環境の未整備
✅ 多言語表記の案内板の不足
この状態では、観光都市として「及第点」にも届かないと言わざるを得ません。
私は、鎌倉の観光を根本から再構築し、「住む・働く・訪れる」すべての人が楽しめるまちづくりを目指します。
住民・事業者・観光客が共存できる鎌倉へ
観光都市・鎌倉の未来は、住民・事業者・観光客が互いに理解し、共存できる環境を整えることから始まります。
そのためには、観光政策の見直しと、持続可能な観光戦略の策定が必要不可欠です。
これからの鎌倉が、観光と市民生活が調和した、本当の意味で魅力あるまちとなるよう、私は尽力していきます。
観光業が生み出す地域経済の好循環
日本のGDPにおいて、サービス業が占める割合は約75%、金額にすると約360兆円にのぼります。さらに、就業者の約80%がサービス業に従事しており、今後も増加傾向にあります。
このことからも分かるように、当然鎌倉の経済も、観光客を相手にする事業者の皆さんに支えられています。(鎌倉市は製造業も主要産業に含まれます。)
そして、観光業に携わる事業者が元気を取り戻すことは、地域経済全体の活性化につながります。
観光業が地域経済に与える影響
観光業は、飲食業・小売業・宿泊業・交通機関にとどまらず、地元の生産者や職人など、さまざまな分野に経済的な波及効果をもたらす力を持っています。
観光客が地域で消費活動を行うことで、
✅ 事業者の収益が向上
✅ 従業員の賃金が上昇
✅ 地元への再投資が促進
といった形で、地域内でお金が循環していきます。
観光業の発展がもたらす好循環
観光業が活性化すると、観光業に直接関わらない事業者にも恩恵が及びます。
例えば、
✅ 建築・建設業(店舗の改装・修繕が増える)
✅ 地元のスーパー・商店(従業員や観光客向けの需要が増加)
✅ 街の電気屋さん・お花屋さん・八百屋さん・お肉屋さん(飲食店や宿泊施設への供給が拡大)
このように、観光業の事業者の収益が増えることで、地域全体の企業や商店への仕事が増え、経済の好循環が生まれます。
経済の循環とオーバーツーリズムを両輪で考える
観光と地域経済のバランスを考える 〜鎌倉の未来への提言〜
近年、メディアでオーバーツーリズムが論じられる際、鎌倉の映像が必ずと言っていいほど使用され、「鎌倉は常に大混雑している」という印象が広まっています。
2024年のゴールデンウィークに行われた「江ノ電を使わずに徒歩で行こう」という実証実験の際も、多くのメディアがこぞって報道しました。
しかし、視聴率を意識した偏った編集が行われ、「地元住民の全員が観光客に否定的であるかのような印象」が作り出されていると感じます。
この結果、小町通りをはじめとする多くの店舗の売上が昨年比を下回る事態となりました。
地域経済を支える観光業への影響
鎌倉には、個人で店舗を経営する事業者が多く、彼らはコロナ禍を耐え抜き、ようやく元気を取り戻しつつあります。
オーバーツーリズム対策として急激に観光客を抑制する施策や、急な円高の影響で観光客の減少が続けば、現在顕在化している問題は一時的に解消されるかもしれません。
しかし、その裏で地元の事業者への深刻な悪影響が生じることを強く懸念しています。
「住民」と「観光業」の両立を目指して
地域住民の生活環境を守るためのオーバーツーリズム対策は喫緊の課題です。
しかし、同時に地元経済の衰退を防ぐための施策も、同じくらい重要です。
この二つのバランスを取りながら進めていくことが、持続可能な観光都市・鎌倉の実現に必要不可欠です。
経済の好循環が生み出すポジティブなスパイラル
観光業を中心とした地域経済の活性化は、あらゆる社会課題の解決に向けた基盤を築きます。
✅ 経済が安定すれば、税収が増加し、行政サービスの向上が可能になる
✅ この財源を活用することで、教育・医療・福祉・インフラ整備の充実につながる
✅ 雇用の拡大により、若年層の就労支援や高齢者の社会参加が促進され、地域コミュニティが活性化する
✅ 財政の余裕ができることで、環境保護や再生可能エネルギーの導入など、持続可能な取り組みにも注力できる
このように、経済の好循環は社会全体に信頼と安定をもたらし、多くの課題解決につながる鍵となるのです。
これはグローバリゼーションでもローカリゼーションでも本質は同じです。
つまり、鎌倉の地域経済においても、同様の考え方が適用できます。
観光業の持つ本来の価値を再認識し、
✅ 観光業を支える事業者への支援
✅ 観光資源を魅力的に発信する取り組み
を進めることが、地域経済の活性化につながります。
また、京都のように、観光が市民の暮らしや経済にどう寄与しているのかを「見える化」し、市民の理解を深めることも重要です。
観光は「まちの未来を支える資源」
現在の鎌倉では、観光の「負の側面」ばかりがクローズアップされています。
しかし、観光は本来、
✅ 地域経済の活性化
✅ 税収増加による公共サービスの向上
✅ 雇用創出
✅ 設備投資やバリアフリー化の促進
✅ 寺社・文化・自然の維持・継承
など、多くの恩恵をもたらします。
私は、鎌倉がこれからも「住む・働く・訪れる」すべての人にとって魅力的なまちであり続けるために、観光業と地域経済を両輪で支える施策を推進していきます。

バージョンアップではなく再構築 「祈り」と「道」が鎌倉らしい観光資源となる
観光は、私たちの心に新たな刺激と気づきをもたらし、人生を豊かにする力を持っています。
自然の美しさや歴史ある文化に触れることで、日常では味わえない感動や癒しを得られるだけでなく、異なる価値観や人々との交流を通じて、視野が広がる貴重な機会となります。
また、新しい場所を訪れることで、自分自身の感性が磨かれ、日々の生活に新たなエネルギーと活力が生まれます。
観光とは、単なる移動や消費活動ではなく、心の成長や内面的な豊かさを育む旅なのです。
しかし、その一方で、混雑・マナー・モラル・感染症の拡大といった観光課題も顕在化していることは否定できません。
だからこそ、今こそ鎌倉の観光を見つめ直す時です。
「道」に通じる鎌倉の魅力
私は、これからの鎌倉観光は、単なる名所巡りやグルメを楽しむだけでなく、古都ならではの「精神性」に触れることが重要になると考えています。
鎌倉は、かつて武士の都として栄え、禅の精神が根づいた地。
そのため、寺社での祈りや礼儀作法の意味を学ぶことはもちろん、剣道・弓道・空手道などの武道や、茶道・華道・書道といった「道」の精神に触れることが、鎌倉の魅力をより深く味わう鍵となります。
これらの「道」は、単なる技術や型を習得するものではなく、自己を磨き、高めるための修行の一環として受け継がれてきました。
✅ 武士たちは、剣を振るうだけでなく、精神を鍛え、礼を重んじることで真の強さを追求しました。
✅ 茶道や華道は、もてなしの心を通じて、美しさや調和を大切にする精神を養っています。
鎌倉の歴史や文化に触れることは、こうした精神性を感じ、自らの生き方を見つめ直す機会にもなります。
ただ訪れるだけでなく、鎌倉の空気を深く吸い込み、そこに息づく精神を学ぶことで、より豊かな旅になるでしょう。
鎌倉観光の未来 〜バージョンアップではなくリビルド〜
鎌倉の観光に必要なのは、単なるアップデート(バージョンアップ)ではなく、「リビルド(再構築)」「リディスカバリー(再発見)」「リクリエイション(再創造)」「リジェネラティブ(再生)」です。
鎌倉にはすでに、
✅ 海・山・歴史・人という魅力的な観光資源や文化が揃っています。
✅ 新しいコンテンツを作る必要はなく、既存の魅力を見つめ直し、再構築することが大切です。
これは、一朝一夕でできることではありません。
しかし、「祈り」や「道」を中心とした鎌倉独自の観光文化を再創出することは、観光客だけでなく、住民にとっても「鎌倉らしさ」をより深く感じられる取り組みになるはずです。
文化は、関係人口がいなくなれば消滅する
文化は、一度消えてしまうと復活させるのは極めて困難です。
鎌倉の素晴らしい文化を後世に残していくためにも、今、誰かが動かなければなりません。
鎌倉には、すでに魅力を発信し続けている人々がいます。
✅ 鎌倉ならではの個性あるお店の経営
✅ リジェネラティブツーリズムの推進
✅ 地域の魅力を凝縮したマルシェやイベントの開催
✅ 鎌倉の美味しいカフェラテを集めたMAPの制作
✅ 新しい観光の形「鎌倉クエスト」の提案
こうした人々とともに、鎌倉の魅力を見つめ直し、再構築することが求められます。
「持続可能な鎌倉観光」の実現へ
私は、単なる観光地の賑わいを求めるのではなく、鎌倉の本質的な価値を再発見し、未来へとつなげる観光を実現したいと考えています。
そのために、「祈り」や「道」に根ざした観光文化を再構築し、地域全体で鎌倉の魅力を高めていくことが不可欠です。
鎌倉の観光は、これから新たなフェーズへと進むべき時を迎えています。
✅ 「一過性のブーム」ではなく、「持続可能な観光」へ。
✅ 「消費される観光地」ではなく、「価値を育む観光地」へ。
鎌倉の未来のために、今、私たちができることを一つずつ積み重ねていきます。
そして、それを可能にするのが、「鎌倉DMO構想」です。
鎌倉の観光を再構築するためのDMOの設立を目指して
2024年8月某日、観光庁長官および関東運輸局局長が鎌倉を訪れ、オーバーツーリズムの現状を視察するとともに、意見交換会が行われました。私もこの場に参加し、改めて鎌倉の観光の在り方を見つめ直す契機となりました。
鎌倉は古都としての歴史的な魅力に加え、SNSやテレビ番組での紹介が増えたことにより、コロナ禍が明け、訪問者数が急激に増加しました。
特に週末や観光シーズンには、多くの観光客が訪れることで、地域住民の生活や歴史的建造物、自然環境への負担が懸念される状況となっています。そのため、今後は鎌倉の魅力を維持しながら、地域社会と観光客が共存できる持続可能な観光地づくりが不可欠です。
日本を代表する観光都市としての役割
意見交換会では、以下のような課題が挙げられました。
✅ 観光客の平準化(特定のエリアや時間帯に集中しない対策)
✅ インフラ整備(交通・案内表示・観光拠点の環境整備)
✅ 観光客へのマナー啓発(持続可能な観光のためのルール作り)
鎌倉は、観光庁長官が視察に訪れるほど日本において重要な観光地であることを改めて認識する必要があります。その上で、観光業に携わる事業者や地元住民が大同団結し、日本のオーバーツーリズム対策の成功事例となる姿を目指すべきだと強く感じました。
今後の取り組みと課題解決の方向性
この度の意見交換会で交わされた議論が形骸化されることなく、実効性のある取り組みへとつながることが重要です。
そのためには、
✅ DMO(観光地域づくり法人)の設立による観光戦略の策定
✅ 地元住民との協働による新たな観光の形の構築
✅ 観光と地域生活の調和を目指した具体的な施策の推進
が不可欠だと考えます。
また、本来であれば海と隣接する観光地としての防災の在り方も同時に議論すべき課題ですが、今回はボリュームが大きいため、ここでは割愛します。
鎌倉の魅力と成り立ち
鎌倉の観光を再構築するために、まず鎌倉の魅力とまちの成り立ちについて見つめ直すことから始めたいと思います。
鎌倉の魅力
1、歴史的遺産
鎌倉は、日本で初めて武家政権が誕生した歴史的にも重要な都市です。鶴岡八幡宮、建長寺、円覚寺など多くの古刹や神社が点在し、日本の歴史や文化を肌で感じることができます。
2、美しく豊かな自然
鎌倉は、海と山に囲まれ、豊かな自然に恵まれています。ハイキングコースや海岸沿いの散策が楽しめ、四季折々の風景が楽しめるところが魅力です。特に、春の桜、梅雨の紫陽花、秋の紅葉や銀杏は、本当に美しく多くの観光客を魅了します。
3、伝統文化と工芸品
鎌倉には、鎌倉彫という鎌倉時代から受け継がれる伝統工芸があります。また、弓道や空手に代表される武道、そして、茶道、華道、書道などの教室が点在し、日本の伝統文化を体験する場所が数多くあります。そして、夏になると各地でお囃子の音色と共に祭りや神輿渡御を楽しむことができます。このように、鎌倉では地元の職人の伝統的な手仕事や武、茶、花、書、祭といった日本の伝統文化を身近に感じることができます。
4、鎌倉の特性を活かしたグルメ
鎌倉は、相模湾で採れた新鮮な海の幸や地元の鎌倉野菜を使った多彩な料理が楽しめる場所です。昭和から変わらずに伝統の味を受け継いでいるお店やオシャレなカフェ、鳩サブレーなどの定番のお土産や流行のスイーツ、食べ歩き、寿司、天麩羅、イタリア料理、フランス料理など、多種多様な本格グルメを楽しめるところも大きな魅力の一つです。
5、アクセスの良さ
東京や横浜からのアクセスが良く、日帰り旅行が楽しめるので、思い立ったらすぐに訪れることができるところも魅力の一つです。鎌倉の海沿いを走る江ノ電の車窓に映る数々の美景を楽しめるのも鎌倉の素晴らしい一面です。
6、鎌倉らしい穏やかな雰囲気
鎌倉は東京や横浜などの都会の喧騒から離れ、静かで落ち着いた雰囲気が漂う街です。歴史、文化、自然が調和されていて、鎌倉にいるだけで心身ともにリフレッシュできる素晴らしい環境が整っているところも鎌倉が観光地として不動の人気を誇る理由です。
鎌倉の観光都市としての成り立ちと未来への課題
鎌倉の歴史を紐解くと、この街がどのように形成され、観光都市として発展してきたのかがよく分かります。
鎌倉は、鎌倉時代の終焉とともに寂れ、一時は寒村と化していました。
しかし、江戸時代に入り、水戸光圀が編纂した『新編鎌倉志』が契機となり、鎌倉・江ノ島の観光が再び注目されるようになります。
明治時代に入ると、明治22年の横須賀線・鎌倉駅の開業を機に、東京や横浜などの都市部からのアクセスが格段に向上しました。
この結果、鎌倉は避暑地・避寒地として人気を博し、皇族・財界人・軍人などの別荘や保養所が建てられ、多くの人々が訪れるようになります。
さらに、鎌倉には「鎌倉文士」と呼ばれる文人墨客が集い、文芸活動の拠点としても発展しました。
こうした歴史を経て、鎌倉は「歴史・自然・文化」が融合した都市**として形成されていきました。
観光産業と地元経済の関係
鎌倉に多くの人が住み、訪れるようになることで、地元の人々は彼らのニーズに応えるために商売を営み、鎌倉の経済を発展させてきました。
このような背景から考えると、鎌倉は古くから「観光客の来訪によって形成されてきた観光都市」であることが分かります。つまり、観光は鎌倉の成り立ちそのものであり、地域経済の根幹なのです。
この観光都市としての歴史を市民に周知することで、観光産業や観光客に対する理解を深め、地域全体の意識改革(マインドリセット)を促すことが重要です。
現在の課題:観光へのビジョンが不明確
しかしながら、現在の鎌倉では、観光の未来へのビジョンが明確に示されていません。
✅ オーバーツーリズム対策の方針が不透明
✅ 新たな観光のあり方への考えの不足
✅ 地元住民との相互理解や合意形成の遅れ
このため、観光都市としての一体感を持てない住民や商店の方々が多いのが現状です。
解決策:観光都市・鎌倉の未来を担うDMOの設立
当然、これらの課題は一朝一夕に解決できるものではありません。
しかし、持続可能な形で着実に前進するためには、観光戦略を統括し、地域と連携しながら施策を推進する「DMO(観光まちづくり法人)」の設立が急務であると考えます。
DMOを通じて、
✅ 観光と住民生活のバランスを取る施策を策定
✅ 持続可能な観光モデルの確立
✅ 地域経済を活性化しつつ、歴史や文化の保全を両立
といった観光政策を総合的に進めることで、鎌倉は「訪れる人にも、住む人にも優しい観光都市」へと進化できるはずです。
日帰り型観光から宿泊・滞在型観光へのシフト
鎌倉は、歴史ある寺社や美しい自然に恵まれた国内有数の観光地ですが、訪れる観光客の大半が日帰りであり、宿泊客は全体のわずか5%程度にとどまっています。(もちろん立地面で考えると他の観光地よりも低い数字になることは当然ですが京都市の宿泊率は60%を超えています)
観光地としての持続的な発展を考えると、「日帰り型観光」から「宿泊・滞在型観光」へとシフトし、一人当たりの観光消費額を向上させることが不可欠です。
そのためには、「祈り」と「道」に通じる日本人の精神性を体験できる特別なプログラムを、朝と夜の時間帯に提供することが重要です。
朝は、静寂に包まれた寺院での座禅や写経、神社での正式参拝を通じて、鎌倉の本質的な魅力を体感できる機会を創出。
夜は、鎌倉の風情を感じながら、茶道や華道、剣道など「道」の精神に触れる体験や大船の赤提灯やBARホッピング、そして、鎌倉各地の個性あふれる飲食店での地元ならではの体験を提供することで、日中の観光だけでは味わえない深みのある時間を演出します。
このような宿泊・滞在型の観光体験を充実させることで、観光客の滞在時間を延ばし、地域経済の活性化にもつなげていきます。
1. 地域経済の活性化と観光収益の向上
現在の鎌倉観光は、昼間の寺社巡りやグルメ、ショッピングが中心で、多くの観光客は夕方には帰路につきます。そのため、宿泊施設や夜間の観光消費が限定的で、地域全体の経済効果を十分に引き出せていません。宿泊型観光を促進することで、ホテル・旅館だけでなく、夕食やナイトツアー、地元の文化体験など多様なサービスが活性化し、一人当たりの観光消費額が大幅に増加します。
2. 観光の質の向上と混雑の分散
日帰り観光では、観光客が特定の時間帯(主に午前〜午後)に集中し、特定のスポットや交通機関の混雑を引き起こします。宿泊型観光を促すことで、訪問時間が分散され、観光客がより落ち着いた雰囲気の中で鎌倉を楽しめるようになります。また、早朝の静かな寺社巡りや、夜のライトアップイベントなど、新たな魅力を発信することで、観光の質を高めることができます。
3. 持続可能な観光地経営
観光地が長期的に発展するためには、一時的な訪問者数の増加よりも、観光客一人ひとりの消費額を高めることが重要です。宿泊型観光の推進により、観光消費が宿泊・飲食・体験・買い物と多方面に広がることで、地域経済の安定した収益につながります。また、過度な日帰り観光による環境負荷を軽減し、持続可能な観光を実現することにも貢献できます。
4. 新たな観光コンテンツの創出
鎌倉は歴史的な資産だけでなく、海や山といった豊かな自然にも恵まれています。宿泊客をターゲットに、ナイトツアー、ヨガや座禅体験、ナイトクルーズ、星空観察など、夜間や早朝に楽しめるアクティビティを充実させることで、新たな観光需要を生み出すことができます。特に、国内外の富裕層やインバウンド観光客を惹きつける高付加価値の宿泊プランを提供することで、観光収益の向上が期待できます。
5. インバウンド観光客の受け入れ強化
鎌倉は外国人観光客にも人気のある観光地ですが、宿泊施設の不足により、東京や横浜に宿泊し、日帰りで訪れるケースが多くなっています。国際的な観光地としての競争力を高めるためにも、外国人向けの宿泊施設や長期滞在型のサービスを整備することが重要です。
鎌倉が観光収益を向上させ、持続可能な観光地として発展するためには、宿泊型観光・滞在型観光へのシフトが不可欠です。宿泊客を増やすことで、消費の幅を広げ、地域経済を活性化するとともに、観光の質を向上させることができます。
行政・企業・地域住民が連携し、新たな宿泊施設の整備や、夜間・早朝の観光コンテンツの充実を図ることで、鎌倉の魅力をさらに高めることができるでしょう。
鎌倉におけるDMOの役割と必要性
鎌倉の観光課題を解決し、持続可能な観光都市を実現するためには、DMO(観光地域づくり法人)の設立と運営が不可欠です。
DMOは、観光地全体の管理を担い、地域の観光資源を最適に活用する戦略を策定することで、観光と地域住民の共生を図りながら、経済の活性化と文化の保全を両立する役割を果たします。
ここでは、鎌倉においてDMOが果たすべき6つの重要な役割について整理します。
1. 観光地の統合的な管理と戦略的発展
DMOは、地域ごとにバラバラだった観光施策を統合し、一貫した戦略のもとで観光の発展を推進します。
✅ インフラ整備(交通、トイレ、ゴミ対策、電波環境など)
✅ マーケティング戦略の策定(ターゲットごとのプロモーション)
✅ 観光資源の保護(歴史的建造物や自然環境の維持)
特に、鎌倉・腰越・大船・深沢・玉縄といったエリアごとの特色を活かし、オール鎌倉としての観光モデルを確立することが重要です。
2. 地域経済の活性化
DMOは、観光を通じた地域経済の活性化を促進します。
✅ 観光客の滞在期間を延ばし、観光消費額を増加
✅ 宿泊施設、飲食店、小売業、文化施設への経済的恩恵
✅ 観光関連の新たな雇用創出
現在、鎌倉駅周辺には多くの観光客が訪れていますが、観光消費額の低さが課題となっています。
観光客を他エリアへ誘導し、滞在時間を延ばすことで、市全体の観光消費額の向上と分散化を同時に達成することが可能です。
3. 持続可能な観光の推進
観光地の持続可能性を確保することは、現代の観光産業において不可欠です。
✅ 自然環境・文化遺産の保護(観光客の増加による負担を軽減)
✅ 地域文化の保存と継承(住民との協働による観光資源の維持管理)
✅ 行政・地域住民・NPO団体との連携強化
鎌倉には、歴史的建造物や豊かな自然が数多く存在し、それらへの配慮は最優先事項です。
観光政策は行政だけでなく、地域住民やNPO団体とも協力し、環境と調和した形で進めていく必要があります。
4. 効果的なマーケティングとブランディング
DMOは、鎌倉の魅力を国内外に発信し、観光ブランドの確立を担います。
✅ エリアごとの特色を活かした観光戦略
✅ ターゲット市場に応じたセグメント別プロモーション
✅ デジタルマーケティングやSNSを活用した情報発信
単なる知名度の向上だけでなく、誰にどのような体験を提供し、どのような振る舞いをしてほしいのかを明確にしたマーケティングとブランディングが求められます。
5. 観光客の満足度向上と鎌倉が大好きなリピーターの獲得
DMOは、観光客の満足度を高め、リピーターを増やす施策を展開します。
✅ 観光客のニーズに基づいたサービス向上
✅ 新しい体験型観光コンテンツの創出(アドベンチャーツーリズム、アグリツーリズムなど)
✅ 地域住民との調和を感じられる観光の提供
鎌倉の観光を、「見る・食べる」から「体験し、学ぶ」へとシフトすることで、訪問者の満足度を高め、持続可能な観光モデルを構築していきます。
6. 地域コミュニティ・商店会・民間企業との協働
DMOは、観光地の発展を支えるために、地域住民・商店会・地元企業・行政機関と密接に連携します。
✅ 地域の声を反映した観光戦略の策定
✅ 商店会との連携によるプロモーション強化
✅ 航空会社・交通機関との連携によるインバウンド対策
例えば、鎌倉小町商店会をはじめとする各商店会と協力し、地域の魅力を最大限に伝えるプロモーションを展開することで、観光都市としての一体感を醸成できます。
さらに、航空会社や鉄道会社と連携し、訪日観光客の流れを適切にコントロールすることで、オーバーツーリズムの抑制にも寄与することが可能です。
鎌倉の未来を守るために 〜観光と住民の共生を目指して〜
日本政府は観光立国の実現に向け、2030年までにインバウンド観光客を6,000万人に増やすという目標を掲げています。
また、「国際的な人材交流の促進を通じた新時代のインバウンド拡大を目指す」と明言していることからも、訪日客の増加が加速し、オーバーツーリズムの問題がさらに深刻化することは避けられません。
したがって、鎌倉を含む観光地では、オーバーツーリズムの解消に向けた早急な対策が求められています。
鎌倉が直面する最大の課題:ツーリズム・ジェントリフィケーション
観光地としての鎌倉には、ゴミ・トイレ・渋滞・電波障害・喫煙問題など、住民の生活に悪影響を及ぼすさまざまな課題があります。
しかし、私が最も深刻な問題だと考えるのは、「ツーリズム・ジェントリフィケーション」です。
ツーリズム・ジェントリフィケーションとは?
過度な観光地化の結果、
✅ 新たな商業ビル建設
✅ 高所得者層の居住開発
✅ 不動産投機の増加
などにより、元々の住民や地元商店が立ち退きを余儀なくされる現象を指します。
そして、この現象はすでに小町地域で起こり始めています。
鎌倉の魅力を未来へつなげるために
過度な観光地化が進めば、元々の住民や商店が姿を消し、地域の文化や経済構造が変化してしまいます。
その結果、
✅ 鎌倉らしさの喪失
✅ 鎌倉の魅力の損壊
が避けられなくなります。
鎌倉時代から受け継がれてきた「鎌倉らしさ」を守り、未来へと引き継ぐためには、「住んでよし、訪れてよしの街・鎌倉」を目指し、観光に関わるすべての人が大同団結することが必要です。
私たちが今この街で取り組むことは、鎌倉で育つ子どもたちに、鎌倉の素晴らしい魅力や資源を残していくことにつながります。この美しい街を100年後の未来へ確実に残していくために、
✅ 地域の人々が支え合い
✅ 訪れる人々とも共に魅力を分かち合い
持続可能なまちづくりを進めることが大切です。そうすれば、100年後も鎌倉は変わらず、多くの人々に愛される素晴らしいまちであり続けるでしょう。そのために、今を生きる私たちが、未来に向けてできることを一つひとつ積み重ねていくことが求められています。