鎌倉の観光を再構築 地域経済の好循環を生み出す 〜住民、事業者、観光客、行政のみんなで創る観光地鎌倉〜

私は、仕事で横浜市の観光事業に携わっており、その見地から率直に申し上げると、今の鎌倉は日本を代表する観光地とは言い難い状況です。
旧鎌倉や鎌倉高校前などの地域では、渋滞、混雑、ゴミのポイ捨て、路上喫煙、電波障害などの市民生活へ悪影響が出ており、これ以上観光客に来てほしくないと考える住民もいらっしゃいます。
一方で、観光客を中心に商売をしている事業者は、コロナ禍による辛酸を舐め続け、ようやく賑わいが戻ってきたこの状態が続いてほしいと考えていらっしゃいます。
結果、両者の間に溝が作られていて、本来この溝を埋めるのが行政の役割だと私は考えていますが、この問題を解決するのは、非常に難しく、未だ目に見える形では行われていません。
さらには、トイレが少ない、喫煙所がない、ゴミ箱がない、Wi-Fiがない、多言語表記の案内板もない、という状態は観光都市として及第点にも届いません。
私は、今の鎌倉の観光を再構築し、住民、事業者、観光客が相互に理解し合い、鎌倉に住む、働く、訪れる、誰もが楽しめる観光地鎌倉を目指します。

鎌倉の地域経済の好循環を生むために

日本のGDPにおいてサービス業が占める割合は約75%で金額で言うと約360兆です。そして、サービス業の従事者は80%にのぼり、今後も増加傾向にあります。このことから鎌倉の経済も、観光客を相手にする事業者の皆さんに支えられているということが分かります。
そして、その事業者の皆さんが元気を取り戻すことは、地域経済全体の活性化につながります。
観光業は地域の飲食業、小売業、宿泊業、交通機関、さらには地元の生産者や職人など、さまざまな分野に経済的効果を波及させる力を持っています。観光客が地域で消費活動を行うことで、直接的に事業者の収益が向上し、それが従業員への賃金や地元への再投資という形で地域内でお金が循環していきます。
つまり、直接的に観光客相手に商売をしていない事業者、例えば建築や建設関係、地元住民を相手にしているスーパー、街の電気屋さん、お花屋さん、八百屋さん、お肉屋さん、などなど、観光業の事業者の収益が増えることで、これらの地元の企業やお店への仕事が増え、経済の好循環が生まれるということです。

経済の循環とオーバーツーリズムを両輪で考える

近年メディアなどでオーバーツーリズムについて論じられる際、必ずと言っていいほど鎌倉の映像が使われ、あたかも常に大混雑しているかの様な印象が与えられています。
2024年のゴールデンウィークに鎌倉駅から長谷の大仏までの移動を「江ノ電を使わずに徒歩で行こう」という実証実験が行われた際も多くのメディアでこの様子が報じられました
視聴率が高くなるのか、あたかも地元住民の全てがネガティヴな発言をしているかのような編集が行われ、住民対観光客という二項対立の形が意図的に作られているのを感じます。
その結果、小町通りなどの店舗では、多くの事業者の売上が昨年比を下回りました。
小町通りに限らず、鎌倉には個人で店舗経営をされている方たちがまだまだ多くいらっしゃいます。これらの商店は、コロナ禍によって辛酸をなめ続け、今ようやく元気を取り戻してきたところです。
オーバーツーリズム対策による何らかの施策や急な円高によって観光客が減れば、今顕在化している問題は解消できるかもしれませんが、今度は事業者への悪影響が出てくることを強く懸念しています。
私は、地域の住民に悪影響の出るオーバーツーリズム対策は喫緊の課題ですが、同時に地元経済が衰退しないような施策を両輪で回していくことが肝要です。
少し範囲が広くなりますが、経済の好循環は、あらゆる課題の解決に向けた基盤を築く最も重要な要素となります。経済が活性化し、地域や国全体で安定した収益と雇用が生まれると、それに伴い税収も増加します。この財源を活用することで、教育、医療、福祉、インフラ整備など、多岐にわたる社会的課題への対応が可能となります。例えば、安定した経済基盤があれば、低所得層への支援が充実し、貧困問題の緩和に寄与します。また、雇用機会が増えることで若年層の就労支援や高齢者の社会参加が促進され、地域コミュニティが活性化します。さらに、余裕ある財政状況により、環境保護や再生可能エネルギーの普及といった持続可能性への取り組みにも注力できます。
このように経済の好循環は、社会全体に信頼と安定感をもたらし、さまざまな課題の解決に向けてポジティブなスパイラルを生み出す鍵となります。
これは、グローバリゼーションでもローカリゼーションでも本質は同じです。つまり、鎌倉の地域経済でも同様のことが言えると私は考えます。
地域経済を元気にするためには、観光業を支える事業者への支援や、観光資源を魅力的に発信する取り組みが重要です。 観光事業者が元気になることは、地域住民全体にとっても大きな恩恵をもたらすでしょう。
そして、京都のように、観光が市民の暮らし、産業、経済、文化などにどのように寄与しているのかを可視化し、市民への正しい理解を促すことも重要です。
今の鎌倉は観光客が来ることでの悪い面しか見えてきません。
しかし、本来観光は、経済の活性化、税収効果、雇用効果、収益向上による設備投資、バリアフリー化、お寺や神社、文化施設等の入館料等による文化や伝統の維持・継承への貢献など、多くの恩恵をもたらすものです。

バージョンアップではなく再構築 「祈り」と「道」が鎌倉らしい観光資源となる

観光は、私たちの心に新たな刺激と気づきをもたらし、豊かさを高める大きな力を持っています。自然の美しさや歴史ある文化に触れることで、日常では味わえない感動や癒しを得られるだけでなく、異なる価値観や人々との交流を通じて、視野を広げる機会となります。また、新しい場所を訪れることで、自分自身の感性が磨かれ、日々の生活に新たなエネルギーと活力が生まれるでしょう。観光は単なる移動や消費の活動ではなく、心の成長や内面的な豊かさを育むきっかけです。これにより、人生をより深く楽しみ、地域や文化の価値を尊重する姿勢が育まれ、私たち自身がより良い未来を創る原動力となります。
もちろん、混雑、マナー、モラル、感染症の拡大といった観光課題も顕在化していることも事実です。
だからこそ、今一度、鎌倉の観光を見つめ直す必要があります。
私は、これからの鎌倉観光は、単なる名所巡りやグルメを楽しむだけでなく、古都ならではの精神性に触れることが大切になっていくと考えています。
鎌倉は、かつて武士の都として栄え、禅の精神が根づいた地です。そのため、寺社での祈りや礼儀作法に込められた意味を学ぶことはもちろん、剣道、弓道、空手道などの武道や茶道、華道、書道といった「道」の精神に触れることが、鎌倉の魅力をより深く味わう鍵となります。
これらの「道」は、単なる技術や型を習得するものではなく、自己を磨き、高めるための修行の一環として受け継がれてきました。たとえば、武士たちは剣を振るうだけでなく、精神を鍛え、礼を重んじることで真の強さを追求しました。
茶道や華道もまた、もてなしの心を通じて、美しさや調和を大切にする精神を養っています。
鎌倉の歴史や文化に触れることは、そうした精神性を感じ、自らの生き方を見つめ直す機会にもなります。
ただ訪れるだけでなく、鎌倉の空気を深く吸い込み、そこに息づく精神を学ぶことで、より豊かな旅になることでしょう。これからの鎌倉観光は、祈りや礼儀作法、そしてさまざまな「道」に通じる精神を大切にすることで、より意義深いものとなるはずです。
鎌倉の観光に必要なのは、バージョンアップではなくリビルド、リディスカバリー、リクリエイション、リジェネラティブです。
鎌倉には、海、山、歴史、人と魅力的な観光資源や文化がもうすでに十分に揃っています。がんばって新しいコンテンツを作り出したり、バージョンアップする必要はなく、それらを見つめ直して、再構築していけば良いのです。
一朝一夕でできることではありませんが、「祈り」や「道」を中心とした鎌倉の観光文化、鎌倉の魅力を再創出していきます。これは観光客だけでなく、住民の皆さんにもより鎌倉らしさや魅力を感じてもらえるような取り組みになるはずです。
文化というのは関係人口がいなくなれば消滅してしまい、一度なくなると始めるのはとても困難です。
鎌倉の素晴らしい文化の数々を後世に残していくため、今誰かがやらなければいけません。
鎌倉には、鎌倉ならではの個性あるお店の経営、リジェネラティブツーリズムの推進、地域の魅力を凝縮させたマルシェの開催、鎌倉の美味しいカフェラテだけを集めたMAPの制作、鎌倉クエストという新しい観光の提案など、鎌倉の魅力を発信するために活動している方たちが多くいらっしゃいます。
このような方たちと共に鎌倉の魅力を今一度、見つめ直し、再構築することが求められます。
そして、それを可能にするのが鎌倉DMO構想です。

鎌倉の観光を再構築するためのDMOの設立を目指して

2024年8月某日、観光庁長官および関東運輸局局長による鎌倉のオーバーツーリズムの現状を知るための視察および意見交換会が行われました。
私もその場に参加させていただき、改めてこれからの鎌倉の観光の形について深く考えるきっかけを与えていただきました。
鎌倉は古都としての魅力に加え、近年ではSNSやテレビ番組での紹介が増えたこともあり、訪問者数が年々増加しています。特に週末や観光シーズンには、多くの観光客の来訪により地域住民の生活への影響や、歴史的建造物および自然環境への負担が起こらないよう取り組んでいくことの必要性、そして、鎌倉の魅力を維持しながら、地域社会と観光客が共存できる持続可能な観光地を目指すことの重要性を感じました。
また、日本を代表する観光都市として、観光客の平準化、インフラ整備、観光客へのマナー啓発など、他の地域に先駆けて取り組むべき多くの課題があることも認識しました。
鎌倉は観光庁長官が視察に来られるほど、日本において重要な観光地であることを鎌倉の観光に携わる方たちが強く自覚し、大同団結して日本のオーバーツーリズム対策の成功事例の姿を目指すべきであり、この度の意見交換会で交わされた内容が形骸化されないよう、明確な意思を持って具現化し、解決へ向かうためには、DMOの設立や地元住民との協働による新たな観光の形を構築する必要があると考えます。
※本来、海と隣接する観光地としての防災の在り方も同時に考えるべき重要な課題ですが、ボリュームが大きすぎるためここでは省略いたします。

鎌倉の魅力と成り立ち

鎌倉の観光を再構築するために、まず鎌倉の魅力とまちの成り立ちについて見つめ直すことから始めたいと思います。

鎌倉の魅力
1、歴史的遺産
鎌倉は、日本で初めて武家政権が誕生した歴史的にも重要な都市です。鶴岡八幡宮、建長寺、円覚寺など多くの古刹や神社が点在し、日本の歴史や文化を肌で感じることができます。

2、美しく豊かな自然
鎌倉は、海と山に囲まれ、豊かな自然に恵まれています。ハイキングコースや海岸沿いの散策が楽しめ、四季折々の風景が楽しめるところが魅力です。特に、春の桜、梅雨の紫陽花、秋の紅葉や銀杏は、本当に美しく多くの観光客を魅了します。

3、伝統文化と工芸品
鎌倉には、鎌倉彫という鎌倉時代から受け継がれる伝統工芸があります。また、弓道や空手に代表される武道、そして、茶道、華道、書道などの教室が点在し、日本の伝統文化を体験する場所が数多くあります。そして、夏になると各地でお囃子の音色と共に祭りや神輿渡御を楽しむことができます。このように、鎌倉では地元の職人の伝統的な手仕事や武、茶、花、書、祭といった日本の伝統文化を身近に感じることができます。

4、鎌倉の特性を活かしたグルメ
鎌倉は、相模湾で採れた新鮮な海の幸や地元の鎌倉野菜を使った多彩な料理が楽しめる場所です。昭和から変わらずに伝統の味を受け継いでいるお店やオシャレなカフェ、鳩サブレーなどの定番のお土産や流行のスイーツ、食べ歩き、寿司、天麩羅、イタリア料理、フランス料理など、多種多様な本格グルメを楽しめるところも大きな魅力の一つです。

5、アクセスの良さ
東京や横浜からのアクセスが良く、日帰り旅行が楽しめるので、思い立ったらすぐに訪れることができるところも魅力の一つです。鎌倉の海沿いを走る江ノ電の車窓に映る数々の美景を楽しめるのも鎌倉の素晴らしい一面です。

6、鎌倉らしい穏やかな雰囲気
鎌倉は東京や横浜などの都会の喧騒から離れ、静かで落ち着いた雰囲気が漂う街です。歴史、文化、自然が調和されていて、鎌倉にいるだけで心身ともにリフレッシュできる素晴らしい環境が整っているところも鎌倉が観光地として不動の人気を誇る理由です。

観光都市鎌倉の成り立ち
一方で、鎌倉の歴史を紐解くと、どのように都市が形成されていったのかがよく分かります。鎌倉は鎌倉時代の終焉とともに寂れていき、寒村と化していましたが、江戸時代に入り水戸光圀が製作した「新編鎌倉志」がきっかけで鎌倉・江ノ島の観光が再び注目されるようになります。
明治に入ると、明治22年に横須賀線の鎌倉駅の開業を契機に、東京や横浜などの都市部からの利便性が格段に向上し、避暑地・避寒地として人気を博し、皇族、財政界、軍人などの別荘や保養所が建てられ多くの人が鎌倉へ訪れるようになりました。
その後も、鎌倉文士と呼ばれる多くの文人墨客が鎌倉で文芸活動を行うようになり、歴史、自然に加え文化的な要素も取り入れられ、近年の鎌倉を形成していきました。
このように多くの人が鎌倉に住まう、訪れるようになったことで地元の人たちは彼らのニーズに応えるため商売を行い鎌倉の経済を成長させてきました。
これらのことから現在の鎌倉は、別荘族や観光客の来訪によって形成されてきた観光都市であることが分かります。このような観光都市としての成り立ちの歴史を市民に周知することでマインドリセットを促し、観光産業および観光客への理解を深めることを積極的に行う必要があります。
しかしながら、現在の鎌倉市では、新しい観光へのアップデートやオーバーツーリズム対策、特に地元住民への相互理解や合意形成など、観光における未来へのビジョンが明確に示されていないことから、観光都市としての一体感を感じられない住民や商店の方たちが多くいらっしゃいます。
当然のことながら、これらの課題は一朝一夕に解決することは叶いませんが、着実に一歩ずつ前に進ためにはDMOの設立が急務であると考えます。

日帰り型観光から宿泊型、滞在型観光へ

鎌倉は歴史的な寺社や美しい自然に恵まれた国内有数の観光地ですが、日帰り客が大半を占め、宿泊客は全体の僅か4%ほどしかいないことが課題となっています。観光地としての持続的な発展を考えると、「日帰り型観光」から「宿泊型観光」へシフトし、一人当たりの観光消費額を向上させることが不可欠です。
そのためには先ほど説明した「祈り」と「道」に通じる日本人の精神性を知ることができる特別体験を朝と夜の時間帯に用意する必要があります。

1. 地域経済の活性化と観光収益の向上

現在の鎌倉観光は、昼間の寺社巡りやグルメ、ショッピングが中心で、多くの観光客は夕方には帰路につきます。そのため、宿泊施設や夜間の観光消費が限定的で、地域全体の経済効果を十分に引き出せていません。宿泊型観光を促進することで、ホテル・旅館だけでなく、夕食やナイトツアー、地元の文化体験など多様なサービスが活性化し、一人当たりの観光消費額が大幅に増加します。

2. 観光の質の向上と混雑の分散
日帰り観光では、観光客が特定の時間帯(主に午前〜午後)に集中し、特定のスポットや交通機関の混雑を引き起こします。宿泊型観光を促すことで、訪問時間が分散され、観光客がより落ち着いた雰囲気の中で鎌倉を楽しめるようになります。また、早朝の静かな寺社巡りや、夜のライトアップイベントなど、新たな魅力を発信することで、観光の質を高めることができます。

3. 持続可能な観光地経営
観光地が長期的に発展するためには、一時的な訪問者数の増加よりも、観光客一人ひとりの消費額を高めることが重要です。宿泊型観光の推進により、観光消費が宿泊・飲食・体験・買い物と多方面に広がることで、地域経済の安定した収益につながります。また、過度な日帰り観光による環境負荷を軽減し、持続可能な観光を実現することにも貢献できます。

4. 新たな観光コンテンツの創出
鎌倉は歴史的な資産だけでなく、海や山といった豊かな自然にも恵まれています。宿泊客をターゲットに、ナイトツアー、ヨガや座禅体験、ナイトクルーズ、星空観察など、夜間や早朝に楽しめるアクティビティを充実させることで、新たな観光需要を生み出すことができます。特に、国内外の富裕層やインバウンド観光客を惹きつける高付加価値の宿泊プランを提供することで、観光収益の向上が期待できます。

5. インバウンド観光客の受け入れ強化
鎌倉は外国人観光客にも人気のある観光地ですが、宿泊施設の不足により、東京や横浜に宿泊し、日帰りで訪れるケースが多くなっています。国際的な観光地としての競争力を高めるためにも、外国人向けの宿泊施設や長期滞在型のサービスを整備することが重要です。

鎌倉が観光収益を向上させ、持続可能な観光地として発展するためには、宿泊型観光へのシフトが不可欠です。宿泊客を増やすことで、消費の幅を広げ、地域経済を活性化するとともに、観光の質を向上させることができます。行政・企業・地域住民が連携し、新たな宿泊施設の整備や、夜間・早朝の観光コンテンツの充実を図ることで、鎌倉の魅力をさらに高めることができるでしょう。

DMOの必要性について

DMO(Destination Management Organization)とは、観光地の持続的な発展や競争力を高めるための重要な役割を持った組織です。「日本語では、観光地域作り法人と呼ばれます」

1、観光地の統合的な管理と戦略的発展
DMOは観光地全体の管理を担当し、地域の観光資源を最適に活用するための戦略を策定します。
これにより、地域ごとのバラバラな取り組みを統合し、一貫性のある観光戦略を実行できるようになります。
例えば、インフラ整備、マーケティング、観光資源の保護など多岐に渡る分野で一体的な計画が実施されることで観光客および住民の満足度を向上させます。結果的に、観光地としての競争力の向上にも寄与します。
鎌倉、腰越、大船、深沢、玉縄の各エリアの魅力や観光資源を具体化し、統合することでオール鎌倉での観光を実現できるようになります。

2、地域経済の活性化
DMOは観光産業を通して、地域経済を活性化させることを目指します。
観光客の誘致や滞在期間の延長、観光消費額の増加を促すことで、宿泊施設、飲食店、小売業、文化施設などに経済的な恩恵をもたらします。
また、これらに関連する雇用機会の創出にも貢献します。
鎌倉駅周辺エリアはすでに多くの観光客が訪れていますが、観光消費額が低いことが課題です。
また、鎌倉エリアでの観光だけでなく、その他のエリアに誘致することで滞在期間が延び、鎌倉市全体の観光消費額の増加が見込めます。そして、これは分散化にも貢献します。

3、持続可能な観光の推進
観光地の持続可能性を確保することは、現代の観光産業において非常に重要です。
DMOは、環境保護や地域社会への配慮を重視した観光のあり方を推進します。
これには、観光客の増加による自然環境、文化遺産への負担を軽減するための対策や、地域文化の保存、住民との協力による観光資源の維持管理が含まれます。
鎌倉は、歴史的建造物と自然が多い観光地です。これらへ配慮は最優先事項であり、行政だけでなく地域住民やNPO団体と協働で行う必要があります。

4、効果的なマーケティングとブランディング
DMOは、観光地の魅力を国内外に発信し、ブランドイメージを確立する役割を担います。鎌倉のそれぞれのエリアが持つ特有の魅力を効果的に伝えることで、ターゲット市場に適した観光客を誘致し、地域の知名度と訪問者数を増やすことが可能です。つまり、戦略的なゾーニングと観光客のセグメントを行うことで、誰にどのように振る舞ってほしいのかを想定したマーケティングとブランディングを行います。
また、デジタルマーケティングやSNSを活用した現代的な手法も取り入れ、多様なチャネルを通じて鎌倉のプロモーションを行います。

5、観光客の満足度向上とリピーターの獲得
DMOは、観光客のニーズを把握し、サービスの向上や新しい体験を提供することで、観光客の満足度を高めます。これにより訪問者がリピーターとなり、鎌倉のファンとなる可能性が高まります。
また、鎌倉全体の魅力とサービス品質を向上させることで口コミや評判が広がり、さらなる観光客の誘致につながります。
従来の観光とは異なる、アドベンチャーツーリズムやアグリツーリズムと言った体験型観光や自然観光、地元住民との調和を感じられるようなコンテンツを用意し、新しい鎌倉の魅力を提供することで満足度を高めます。

6、地域コミュニティ、商店会、民間企業との協働
DMOは、地域住民、商店会、地元企業、行政機関と密接に協力し、観光地の発展を支えます。
地域の声を反映させた観光戦略を立案することで、住民の理解と協力を得られ、観光地としての持続可能な成長が期待できます。
また、鎌倉小町商店会などの各商店会と連携し、鎌倉の魅力を十分に伝え、満足度を上げるためのプロモーションを行うことは、観光都市としての一体感を醸成します。
そして、例えば、各国の航空会社や国内の交通機関と連携したインバウンド観光客のインフラ整備による満足度向上と来訪者数のコントロールを行うことも視野に入れることができます。
現在顕在化しているオーバーツーリズムは、上記1〜6のコンテンツが包括的に遂行されないことにより引き起こされる諸問題であり、これらのコンテンツを推進していくことは、同時にオーバーツーリズム対策に繋がります。
このように、鎌倉には今まさにDMO主導の観光を構築してくことが求められています。

日本政府は、観光立国の実現に向けた目標の一つに2030年までにインバウンド観光客を6,000万人に増やすことが挙げられており、「国際的な人材交流の促進を通じた新時代のインバウンド拡大を目指す」と明言していますので、これは同時に訪日客の増加に伴うオーバーツーリズムはこれからさらに本格化していくということでもあります。
したがって、鎌倉を含む観光地ではオーバーツーリズムの解消に向けての早急な対策が求められます。
ゴミ、トイレ、渋滞、電波障害、タバコなど、住民の生活に悪影響を及ぼしている問題は、様々ありますが、私が考える最大の問題は、ツーリズム・ジェントリフィケーションです。(ツーリズム・ジェントリフィケーションとは、過度な観光地化の結果、新たな観光関連施設の開業や高所得者層の居住開発、不動産投機により住民の立ち退きなどが生じる現象のことを言います。そして、それはすでに小町地域で起こっています。
過度な観光地化がさらに進んでいくと、元々住んでいた住民や商店が追い出されてしまい、地域性や経済構造に変化が生じます。
これによって起こるのは、鎌倉らしさの喪失、鎌倉の魅力の損壊です。
「住んでよし、訪れてよしの街、鎌倉」を創っていくために、鎌倉時代から脈々と受け継いできた鎌倉らしさを大切に未来へと引き継ぐためには、この時代に鎌倉の観光に携わる私たちが大同団結して取り組んでいく必要があると私は考えます。
そして、それはこの鎌倉で育つ子どもたちに鎌倉の素晴らしい魅力や資源を残していくことにつながります。
この美しいまちを100年後の未来にしっかり残していくために、地域の人々が支え合い、訪れる人々とも共に魅力を分かち合えるまちづくりを進めることで、100年後も鎌倉は変わらず、多くの人々に愛される素晴らしいまちであり続けるでしょう。
そのために、今ここに生きる私たちが、未来へ向けてできることを一つひとつ積み重ねていくことが大切です。
共に鎌倉の未来を創りましょう。